こんにちは、先日飛騨高山にあるフィン・ユール邸を見学してきました。フィン・ユールはハンス・J・ウェグナー、アルネ・ヤコブセンらと並び20世紀を代表するデンマークの家具デザイナーの一人です。建築家でもあった彼の自邸を当時の設計図通りに再現したのが、飛騨高山にあるフィン・ユール邸です。彼の自邸からモダン住宅とは何か?を考えてみたいと思います。
家具の彫刻家 フィン・ユール
フィン・ユールについてもう少し解説します。彼はデンマークの王立芸術アカデミー建築家卒業。建築家でもある彼は、デンマークの家具デザイナーの多くが持っているマイスター(家具職人の資格)を持っていませんでした。北欧家具といえば直線と平面で構成されたシンプルなものが多いなか、彼は彫刻作品などから影響を受け、柔らかで曲線的なフォルムを追求しました。代表作のNo.45は『世界で最も美しいアームを持つ椅子』と言われているほどです。
シンプル × 機能性 = 壁面収納という答え
さて、いよいよフィン・ユール邸をインテリア・コーディネーター的立場から検証したいと思います。オリジナルのフィン・ユール邸が建てられたのは1942年、日本が太平洋戦争をしていた頃です。その頃、すでに北欧ではこんなにもモダンな住宅が存在していたとは!驚きです。(以下、写真は一部を除きデンマークにあるフィン・ユール邸のものです)
室内はコンパクトながらとてもすっきりした印象です。なぜ?それは、箱物家具が置かれていないからでした。リビングには大きな本棚(当時は発売されたばかりのラジオが収まっていたとか)、キッチンはもちろんのこと、廊下にも書斎にも大容量の壁面収納がありました。あらかじめ必要な場所に必要な収納を備え付けておくアイデアは、モダン建築の大切な要素と言えそうです。
スペースを居場所に変える仕掛け
フィン・ユール邸では収納だけでなく、ソファも作り付けられています。象徴的なのは玄関入ってすぐのサンルーム。写真奥のダイニングルームがスキップフロアになっており、その段差を利用してソファが作り付けられています。この場所、本当に気持ちのいい空間でした。建築のデザインの一部として、さらにはその場所の楽しみ方を示唆してくれるような存在として、このソファはなくてはならないものでした。
上の写真にあるように、リビングのソファも作りつけられています。書斎やお手伝いさんのお部屋のテーブル、子供部屋はベッドが収納可能になっているなど、家具と建築を一緒に考えることで空間を有効活用し、デザイン的にもシンプルな空間を実現しているのが、フィン・ユール邸です。住むための箱ではなく、暮らしを営む空間を作る、それもモダン住宅の要素だと言えそうです。
らしさがにじむ手仕事へのこだわり
フィン・ユール邸のシンプルさについてご説明してきましたが、彼はもともと、彫刻のような造形美を愛していた人。そのフォルムへのこだわりが現れているのが暖炉です。エッジのない美しいアール形状の暖炉は、フィン・ユール邸のアイコンと呼べる存在です。エッジがないことで、空間に優しく溶け込むという効果と、耐久性が上がるという性能面でのメリットもあるそうです。とはいえ、作るのは大変そうですね。
シンプルで機能的に、を追求すると、ついつい画一的なものを量産する方向に行ってしまいがちですが、それとこれとは別問題だということを、フィン・ユール邸は教えてくれているようでした。
一見同じように見えるものでも、手間暇かけられたものと、パパッと作られたものでは、そのものの発するエネルギーが違う、そんなことを最近感じます。もちろん、手間暇かかっているものはお値段も高いです。高ければ良いとも思いません。その違いがわかった上でどちらを選択するかを決めることが、モノがあふれた時代の賢い選択ではないでしょうか。
最後はモダン住宅に関係なくなってしまいました。本日も最後までお読みいただきありがとうございました。この記事を気に入っていただけましたら、ワンクリックで応援お願いします。